炎神戦隊ゴーオンジャー第二十七話

東映炎神戦隊ゴーオンジャー」。
第二十七話「孫娘ハント!?」。武上純希脚本。中澤祥次郎監督。
今朝の話は全体においても細部についても面白かったが、中でも最高度に強く印象に残るのはゴーオングリーン城範人(碓井将大D-BOYS])の、優しさと愛らしさに彩られる美しさだったと云えるだろう。快楽主義者である範人の、快楽を欲するからこその並外れた勤労精神とか、仕事における発想の豊かさと手際のよさ、仲間に対する友愛の深さ、魅力的な人々への惚れ易さとか云った面は今までの幾つかの話において印象深く描かれてきた。その度に彼は、登場人物としての性格においてだけではなく顔付きにおいても、飛躍的に魅力を増してきたように思う。範人を演じる碓井将大中村優一や鈴木裕樹に続くD-BOYSの逸材と云ってよいに相違ない。
今回、彼が遭遇したのは、山の中にゴミ屋敷を営んで生活する謎の老女おせん(木野花)。ゴミの山を「宝の山」と呼んで喜んでいたのは、ゴミ屋敷の主としては普通の言であるのかもしれないが、どことなく蛮機族ガイアークに近いものを感じさせる言でもある。実際、老女おせんの正体は、ガイアークでこそなかったものの、人間界とも機械界とも異なるガラクタ界(「ジャンクワールド」)の有力者、魔女博士オーセンに他ならなかった。蛮機族の棟梁、害気大臣キタネイダス(声:真殿光昭)に招聘され、半径百メートル以内にあるゴミを十倍に増加させる兵器を携えて、この人間界へ来たのだった。
興味深いのは、オーセンがキタネイダスとは対等な関係にあって、共闘の関係を何時でも破棄できる立場にあったこと。これは第十三話における遠い星から来たプーコリン(小野明日香)の父ドックーゴ(菅田俊)と害水大臣ケガレシア(及川奈央)との間の関係に近い。実際、オーセンは、自身を招聘するに際してキタネイダスが、「人間たちはガラクタ界へ侵略しようとしている」等という事実無根の話を拵えて騙していたことを知るや、直ちにキタネイダスとの提携関係を解消し、範人を助けたのだ。
オーセンは、キタネイダスとの提携関係を解消するや、ゴミを増加させる代わりにゴミを消去し、花を咲かせた。キタネイダスは「このおぞましい美しさは何なのぞよ」と悲鳴を上げて退散した。ガイアークは汚いことを喜び、美しく清らかであることを嫌う。ゴミがないこと、花が咲いていることはキタネイダス軍団を苦しめた。しかし彼の云う「おぞましい美しさ」の内には、範人とオーセンの間の心の交流の美しさも含意されていたのかもしれない。
オーセンがキタネイダスの嘘を見破ったのは、範人の優しさに接して、範人の優しさを人間の本質と見たからだった。ここにおいてオーセンが範人を試していたことは見逃せない。山の中でケガをして倒れていた範人を助けたオーセンは、彼からの感謝の語を聞くや、感謝の意を表すべく労働を手伝え!と要求して重労働に従事させた上、さらに亡き孫娘の話を聞かせて反応を見た。範人は、自らその孫娘の扮装をして孫娘になり切って「おせんさん」のために尽くした。山の中で遭遇した少年=ゴーオングリーンの優しさの程を試したオーセンは、予想以上の優しさに接したことで考えを改めることができたわけなのだが、今朝のこのドラマが秀逸だったのは、心の優しさ、清らかさという本来なら目には見えないものを効果的に視覚化するにあたり、範人の女装を効果的に描いたところにあると思う。
男子における美と女子における美が、一致するものでもなければ単純な優劣をなすものでもなく、別物であるということは、多くの俳優たちの女装や男装の事例によって実証されている。美形の男子が女装しても美女にはならない反面、必ずしも万人の認める美形ではないかもしれない男子が女装すると美女に見えることがある。範人役の碓井将大に女装をさせることを考え付いた人は、かなり目利きであることだろう。彼は男子として普通に魅力的であるのに、女装してもあれだけ魅力的に見えるとは。
範人が老女おせんの孫娘に扮しているのを見たゴーオンジャーの頑固親父ゴーオンレッド江角走輔(古原靖久)は「範人!おまえ、こんな恰好するのが趣味だったのか?」と先ずは驚きながら面白がり、次いで母親役のゴーオンブルー香坂連(片岡信和)は「オレたちは変な目で見たりしないっス」と味方になったが、ゴーオンイエロー楼山早輝(逢沢りな)は最初からその愛らしさに注目し、ゴーオンブラック石原軍平(海老澤健次)に至っては「同期として自慢できるカワイさだ」と喜んでいた。早輝と軍平は終始「カワイイ」を連発していた印象がある。軍平の好みのタイプなのだろうか。何れにしても、須塔兄妹とは違って彼等の誰一人として範人のこの女装の意図を正確に理解しようとはしていない。それでも彼等は上手く行くのだ。
キタネイダスが出動させた今回の蛮機獣はダウジングバンキ(声:エド・はるみ)。「ダウジング」「ウォッチング」「サーチング」「バッティング」とかグーグー云ってばかりだったダウジングバンキに、走輔は「フザケタ野郎だ!チェンジング!」と応じてゴーオンジャーに変身。上手い応酬だった。
ゴーオンゴールド須塔大翔(徳山秀典)とゴーオンシルバー須塔美羽(杉本有美)の兄妹は何時も以上に頼もしかった。範人が山の中で行方不明になったときには連の要請を受けて直ぐに駆け付けたし、キタネイダスがオーセンの正体を明かしたあとにもなお範人が「おせんさん」のことを信じ続けようとしたときにも「キタネイダスは任せて!」「範人は、兎に角、オーセンを何とかしろ!」と云って範人の思いを信じた。少し前までの兄妹であれば、もっと戦士として冷徹にしか行動できなかったはずだ。範人の女装について大翔が「あんな妹がいてもいいかと思ったな」と何時になく冗談を云ったり、それに嫉妬したのか怒った美羽が大翔の顔をつねったりしていて、走輔や連がそれを見て大喜びしたりして、今やゴーオンウイングスも完全にゴーオンジャーの仲間になっているのが楽しい。
ところで、永らく法事に専念していた害地大臣ヨゴシュタイン(声:梁田清之)は今度はヘルガイユ宮殿から家出。書置きがあった。全文を録しておく也。「探さないでくれナリ 新たな自分を見つけて必ず帰ってくるナリ ヨゴシュタイン」。自分探しの旅に出かける悪の幹部とは、史上初ではないのか。
ともかくも、木野花碓井将大の、まさしく祖母と孫との交流のような芝居が余りにも素晴らしくて印象深い話だったと思う。実によかった。