仮面ライダーディケイド第二十三話

東映仮面ライダーディケイド」。
第二十三話「エンド・オブ・ディエンド」。脚本:井上敏樹。監督:石田秀範。
仮面ライダーディケイド=門矢士(井上正大)は、何時も敵対し合ってきた何時でも不敵な「御宝マニアのコソドロ」の仮面ライダーディエンド=海東大樹(戸谷公人)にも、心の奥に「弱さ」があることを知って、そこに愛を感じた。恐らくは海東大樹もまた門矢士のその愛に愛を感じ得たに違いない。
とはいえ今朝の話には納得ゆかない点がある。二つ挙げよう。
一つ目。かつて仮面ライダーグレイブとして戦っていた海東純一(黒田勇樹)は、フォーティーン(伊藤高史)率いる「エリア管理委員会」によって洗脳されてその配下と化したかと思われていたが、実は逆で、もともとフォーティーンの政治思想に共鳴していて、自らの意思で配下となって働いていたのだ。仮面ライダーランス=禍木慎(杉浦太雄)と仮面ライダーラルク=三輪春香(三津谷葉子)を率いて、三人衆のリーダーとして行動していたのは、エリア管理委員会の支配を打破したかったからではなく、逆に反乱分子としての仮面ライダー集団について全貌を把握し、誘き寄せて一網打尽にするための作戦に他ならなかった。なるほど、そういうことか。だが、この作戦は確かに禍木慎と三輪春香をはじめとする反乱分子=仮面ライダー集団に対しては有効だろうが、そのとき既にエリア管理委員会の警察官として公務に励んでいた弟の海東大樹に対しては逆効果だった。少なくとも海東大樹にだけは、海東純一の正体を明らかにしておくべきだったのではないのか。それなのに逆にフォーティーンと海東純一は、あたかも海東純一がエリア管理委員会の実験室において洗脳のための手術を施されたかのように嘘をついて、兄を愛する海東大樹の心を深く傷付けてしまった結果、海東大樹の脱藩、出奔、反逆を招いてしまったのだ。何と愚かな挙に出たことか。
二つ目。海東大樹はもともと自らの意思でエリア管理委員会に就職し、警察官として反乱分子の逮捕に励んでいた。彼はフォーティーンの政治思想に心から共鳴していたはずなのだ。それなのに彼は、兄の手術を機に、エリア管理委員会への反逆者と化した。なぜか。
この二つ目の疑問点を考察すれば自ずから一つ目の疑問点も氷解するかもしれない。
海東大樹がエリア管理委員会の支配に反発したのは、兄への手術という一点に対してだけではない。むしろ逮捕者への手術という点そのものに反発したのだ。海東大樹はエリア管理委員会の高等官として反乱分子に対する教育プログラムを開発していた。適切な教育を施すことによって、戦闘的な反逆者たちを平和な心優しい市民に変えることができると彼は信じていた。換言すれば彼は人の心を信じていた。自由な意志による自発的な更生を期待していたのだ。ところが、フォーティーンは海東大樹の開発した教育プログラムを採用したかのように見せかけて実際には使用せず、もっと強制的な更生の手段として洗脳の手術を執行していた。エリア管理委員会の支配は、海東大樹の信じたものとは違っていたのだ。だから彼は反逆者と化した。
これを逆から見れば、フォーティーンとエリア管理委員会は海東大樹を信用できなくなっていたのだ。当初は信用していたのかもしれない。信用してよいと判断した根拠は多分、海東大樹が「友を作るタイプではなかった」からだ。人を信じることのできない男、人を愛することのできない男であると見込んで、エリア管理委員会事務局に採用したはずだったろう。それなのに海東大樹は、あたかも人の自由な意志による更生を信じるかのように教育プログラムを開発した上、兄への愛情を捨てきれないでいる有様。ここに危険な気配を嗅ぎ取ったフォーティーン(そして海東純一)は、海東大樹を最終的に信じてよいのかどうかを確かめるため、あのような嘘をついたのだろう。結果、海東大樹は信用ならない危険分子であると判明したわけなのだ。
以上の考察によって二点の疑問は氷解したが、これはさらに新たな疑問点を生じる。弟が兄を愛していた程には兄は弟を愛してはいなかったかもしれないが、それでも、兄にも弟への愛があったのは明らかである以上、フォーティーンは何時かは海東純一をも切り捨てようとしたのではないのか?という点だ。だが、フォーティーンが退治された今、その心配はない。
フォーティーンが消えたのに伴い、手術による洗脳も解除され、ローチ軍団は消滅し、住民たちは自由な意志を取り戻し、小野寺ユウスケ(村井良大)と「夏みかん」こと光夏海(森カンナ)も元に戻った。なお、フォーティーンが洗脳中の両名の内ユウスケを直ぐに解放し、ディケイドとディエンドを退治するための作戦には夏みかんだけを利用したのは、多分、もともと心優しかったユウスケが洗脳によってさらに優しくなり過ぎてしまった所為で、とても利用できそうにない状態になっていると思われたからではなかったろうか。
さて、「海東大樹の世界」への旅が終わり、次の行き先は驚くべきことに「侍戦隊シンケンジャーの世界」。慌てて「侍戦隊シンケンジャー」を見れば、なるほど今朝の第二十幕の最後、シンケンレッド志葉丈瑠(松坂桃李)の居城の裏口に海東大樹が出現してシンケンゴールド=梅盛源太(相馬圭祐)の烏賊折紙を盗み、「通りすがりの仮面ライダーってとこかな?」と名乗って爽やかな笑顔で逃走していた。東映仮面ライダーディケイド公式サイトに載るディケイド&シンケンジャー勢揃いの集合写真を見れば、シンケンブルー池波流ノ介(相葉弘樹)が門矢士のカメラを携えてユウスケと肩を組んでいる。