仮面ライダーW第四十話
東映「仮面ライダーW(ダブル)」。
第四十話「Gの可能性/あなたが許せない」。
脚本:三条陸。監督:柴崎貴行。
左翔太郎(桐山漣)は、相棒フィリップ(菅田将暉)とは既に、心身ともに完全な一体化を果たして「エクストリーム」変身体への進化を遂げていたが、今回はさらにそれに加えて、照井竜(木ノ本嶺浩)とまでも、互いの唇一箇所を通じて一体化を果たしてしまっていた。
この衝撃のキス場面をはじめとして色々笑い所の多い楽しい話だった中で、その楽しさとは正反対に深刻な、極めて重要な事実も明らかにされた。主なところをまとめておこう。
(一)風都に拠点を置く秘密結社ミュージアム園咲家の総帥、「恐怖の帝王」こと園咲琉兵衛(寺田農)は、最初から長女の園咲冴子(生井亜実)ではなく次女の園咲若菜(飛鳥凛)を自身の後継者にする心算だったらしい。なぜなら帝王に与えられるべき「エクストリーム」状態への進化を受容できる身体はクレイドールであり、しかるにそれを授けられたのはあくまでも次女の若菜に他ならなかったからだ。
(二)園咲琉兵衛は、仮面ライダーWのこれまでの活躍の全てを把握していたらしい。しかも、翔太郎が予想外の能力を表出してフィリップ=園咲來人の進化に追随して一体化を果たし「エクストリーム」体にまで到達するだろうことまでも予測できていたらしい。なぜなら王世子としての若菜を用意周到に正しく「エクストリーム」状態へ進化させるために要する「データ」を、仮面ライダーWの進化の観察を通して存分に採取したいと考えていたからだ。換言すれば、自身の真の目的を達成するために、自身の組織の仕事を妨害する者を敢えて「泳がせていた」。そして実際その通りの展開があったわけなのだ。
ここで想起せざるを得ないのは(昨年十一月十五日放送の第十話の)風都博物館の展示内容に驚いていた翔太郎に、館長の園咲琉兵衛が親しく声をかけ、展示品の面白さについて語っていたことだ。あの瞬間にも既に園咲館長は、何となく場違いな来館者だった翔太郎が何者であるのか、あの展示品にどうして驚いていたのかを正確に理解していたに相違ない。また、長女の冴子や娘婿の須藤霧彦(君沢ユウキ)が翔太郎とフィリップ=來人を、そして仮面ライダーWを打倒するようなことはあってはならないと考えていたに相違ないし、同時に、そのようなことにはならないだろうと予想できてもいたに相違ない。
(三)園咲琉兵衛は、長女の冴子と次女の若菜との間の永年にわたる仲違いこそが若菜の覚醒と進化のためには不可欠であることも見抜いていた。冴子に対しては早くから後継候補の重責を投げ与えて厳しく辛く当たっておきながら若菜に対しては最大限の自由を愛情を与えたのは、幸福な若菜に対する冴子の憎しみをかき立てると同時に、若菜に対して厳しく接する方向へ冴子を仕向けることによって、冴子に対する若菜の闘志をも育てるための云わば伏線だったのだろう。この歪んだ育て方が効を奏して、今や冴子は妹への執拗な妨害者と化して度重なる屈辱を若菜に食らわせ、逆にそのことが若菜の闘志を燃え上がらせて覚醒と進化への可能性を拓かせたのだ。
こうした園咲琉兵衛の全知と遠謀が何を目論んだものであるのかは今なお定かではないが、今回一つ見えてきたのは、翔太郎が云ったように、鳴海亜樹子(山本ひかる)の底知れぬ大きな度量は、園咲姉妹の感情を修復し得るかもしれないということだろうか。