仮面ライダードライブ第三十三話

平成仮面ライダー第十六作「仮面ライダードライブ」。第三十三話「だれが泊進ノ介の命を奪ったのか」。
ドライブに変身し得る警視庁特状課巡査の泊進ノ介(竹内涼真)が殉職したことについてはテレヴィの速報や号外で広く知らされたが、実は殉職してはいなかった。なぜなら「ベルトさん」=クリム・スタインベルト(声:クリス・ペプラー)が執念で己のデータを泊進ノ介の心に融合させることで、その身体の機能を保全させて生命を維持させていたから。あとはベルトさんを再起動させれば良いだけだった。チェイス上遠野太洸)はベルトさんが泊進ノ介を簡単に死なせるはずはないと確信していたし、特状課長の本願寺純(片岡鶴太郎)も医師の診断に基づいてその兆候を感受していたのかもしれない。沢神りんな(吉井怜)は明らかにその兆候に気付いていた。詩島霧子(内田理央)のためにマッハ=詩島剛(稲葉友)奪還へ向かおうとしていたチェイスに沢神りんなが何か尋ねていたのは、ベルトさんの力によって泊進ノ介が生きている可能性について意見を聴くためだったろう。
沢神りんなとチェイスの発案によるベルトさん再起動の作戦の遂行にあたっては、詩島剛から詩島霧子を通じて提供された賢者の助言が不可欠の役割を果たした。その賢者とは、ロイミュード003=ブレン(松島庄汰)から詩島剛が奪取した妖怪パッドの中で生き続けていた詩島剛の亡き父、ロイミュードを発明した謎の科学者、蛮野天十郎(声:森田成一)。詩島剛がロイミュード陣営に寝返ったかのように振る舞うことでロイミュード陣営に潜入していたのは、「ミスターX」として特状課を支援すると同時に、あくまでもこの蛮野天十郎パッドを奪取するためであり、しかるにこの奪取をなし得たのは、詩島剛の奪還のためにチェイスが大胆にもロイミュードの巣窟に潜入してきたからに他ならない。そして詩島剛がベルトさん再起動のための最後の重要な鍵を蛮野天十郎から聴き出したのは、それを聴き出すことこそが詩島霧子の「笑顔を取り戻す」ための最善の道であることをチェイスから告げられたから。そして作戦の決行中、妨害に現れたロイミュード001=フリーズ=真影壮一(堀内正美)を食い止めるためにも、チェイスは不可欠だった。こうして見れば、今回の話でも、詩島剛への励起を含め、あらゆる局面においてチェイスが極めて重大な役割を果たし続けていたとわかる。
ところで、ロイミュード001=フリーズは完全消滅の直前、泊進ノ介が父の敵を討ち得たことを嘲笑し、「これから知る真実の闇に、もがき苦しめ」と発した。この含意は、十二年前に泊英介を殺害したのは真影壮一ではなかったということだろう。真犯人が誰であるのかは次週にも明かされるようだが、視聴者の視点から推測してみるのも無益ではないだろう。
真相の「闇」に「もがき苦しめ」という言からは、それが容易には受け入れ難い程に意外であることが想像される。ゆえに、ブレンやロイミュード002=ハート(蕨野友也)やロイミュード009=メディック(馬場ふみか)ではないだろう。とはいえ、いかに意外性を求めるにしても、流石に本願寺純やベルトさんではあり得ない。なぜならそんな「闇」を抱え込んでいては物語そのものが根底から破綻するしかないから。唯一、無理なく想定できるのは警視庁捜査一課長の仁良光秀(飯田基祐)であるに相違ない。
仁良光秀が犯人であるなら、少々意外にも、ロイミュード001=フリーズはその犯行の隠蔽のために数々の事件を起こしていたということになる。まるで奉仕するかのようだが、もちろん奉仕ではなく利用であり、己が超進化態に達するための条件である「屈辱」の感情を燃え上がらせるためには己に対する泊進ノ介の敵意と闘志を燃え立たせることが最も有効であると確信したからこそ、自ら彼の父の敵を演じたかったのであると推察される。隠蔽が目的ではなく、姑息な隠蔽工作を連発することで泊進ノ介の正義の心を執拗に刺激することが目的だったろう。仁良光秀はそのための手段であり、目的を達したのちには「用済み」になることが予定されていた。
しかし多分、フリーズにとって「用済み」になったのちにもなお、仁良光秀には第二の重要な役割が期待されているのではないかと想像されよう。なぜなら、仁良光秀が刑事でありながら同じ刑事に対する殺害を犯した理由は、警視庁内屈指の有能な刑事だった泊英介に対する「嫉妬」だったろうと考えられるから。そして、ロイミュードが超進化態に達するための条件をなす人間の感情は、ロイミュード001=フリーズにとっては「屈辱」、ロイミュード002=ハートにとっては「喜び」、ロイミュード009=メディックにとっては「愛欲」、ロイミュード003=ブレンにとっては「嫉妬」だった。どうやらフリーズが仁良光秀を利用していたのは、己のためであると同時に、ブレンのためでもあったらしい。
なお、ハートに「喜び」を与える好敵手が泊進ノ介であるのは予想の通り。