仮面ライダー剣

テレビ朝日系ドラマ「仮面ライダー剣ブレイド)」。第四十七話。
橘朔也(天野浩成)の絶叫に泣かせるものがあった。「俺は全てを失った…信じるべき正義も、組織も、愛する者も、何もかも…だから最後に残ったものだけは失いたくない…信じられる仲間だけは!」。昨年末の第四十六話では彼は自身の信じた使命が空虚だったことを知らされて「俺たちは最初からお前の欲望のためだけに動かされていたというのか?…俺たちの理想は?…正義は?…」と呟き、どうにも癒され得ない深刻な喪失感を表現していたが、続く第四十七話におけるあの絶叫は、そうした絶望の中で残され得た唯一の希望への、強烈な渇望の表明だったろう。だが、そこに至るまでの短い間にも仲間割れの場面があった。実は「信じられる仲間」の存在それ自体も決して安泰ではないのだろう。それだからこその渇望でもあったろうか。
ここで橘の云う「仲間」とは第一には剣崎一真(椿隆之)のことに相違ない。橘が以前には対立し続けた相川始(森本亮治)を今は逆に庇い、ギラファノコギリクワガタ虫アンデッド金居(窪寺昭)だけを封印しようとしたのは、剣崎が相川始を「信じられる仲間」と認めているのを尊重したいからだったのは間違いない。睦月までも剣崎に同調し始めたことも橘にとっては無視できない事実だったろうし、天音(梶原ひかり)の思いも軽視できなかったろう。橘は内心ではジョーカーとしての相川始の危険性を想定しているわけだから、彼のこの行為は、(1)剣崎をはじめとする仲間たちがどこまでも始を信じようとしていること、そして(2)橘は剣崎をはじめとする仲間たちを信じたいと考えていることの帰結に他ならなかったと推察されよう。では、そもそも相川始に対する剣崎の信頼はどのように生じたのだったか?今回そのことを敢えて問題化したのは上城睦月(北条隆博)だった。「剣崎さんは、どうしてジョーカー、…相川さんをそんな信じる事ができるんですか?」。この問いかけを発した直後の睦月は笑顔だったから、そこには疑念も悪意もなかったはずだ。だが、本人の意図がどうあろうとも問い自体は鋭かった。実際、剣崎は「え?…そうだな…何でだろ?」としか返答できなかった。このテレヴィドラマをこれまで見続けてきた者であれば当然、剣崎に対する相川始の信頼の発生と深化を確と目撃してきたはずだ。「気色わるい」程の「濃い付き合い」とさえ評される二人の間の友愛の深まりの過程を、確かに見詰めてきたはずだ。では、逆の過程はどうだったか。相川始に対する剣崎の信頼と愛はどのように生じて、どのように深まったのだったろうか。正直なところ真相は微妙ではないかとも危惧されるが、本質的には剣崎は最初から相川始を信頼しようとしていたと考えるべきだろう。信頼したいという思いは当初は相川始側の態度により裏切られ、剣崎側も幾らか諦めかけていたが、それでもなお信頼し続け、そうして次第に相川始の精神を和らげて、変容させて、ついには友愛の関係をさえ築き上げたのであると整理して理解しておくべきだろう。