仮面ライダー電王第三十五話

テレビ朝日系。「仮面ライダー電王」。舞原賢三演出。第三十五回「悲劇の復活カード・ゼロ」。
時空を超える汽車ゼロライナーの車内。桜井侑斗(中村優一)の朝食。デネブ(声:大塚芳忠)の焼いた魚。ツクネの中には侑斗の嫌いな椎茸を忍び込ませてあったらしい。それに気付いた侑斗は怒っていた。食後、侑斗はそのまま居眠り。デネブは掃除を始めた。平和で長閑な二人の生活を見るのは久し振りのこと。思えば、侑斗の存在証明の存続に係わる変身用カードの消費枚数が増加するに連れて、それを見ることがなくなっていたようだ。そして変身用カードを全て消費し切って戦闘に参加できなくなった今、両名とも真に深く安堵しているのだ。それが平安な日常を復活させた。
侑斗の幸福な平安を破ったのは、ゼロライナーに姿を現した将来の侑斗、あの野上愛理(松本若菜)の婚約者だった失踪中の青年「桜井侑斗」その人に他ならなかった。新たな変身用カードを届けに来たのだ。デネブは、少年=侑斗の幸福を守りたくて青年「桜井侑斗」をゼロライナーから追い出した。
だが、少年=侑斗は苦悩の末、結局、変身することを選んだ。未来の「時間の運行」を守るため。野上良太郎佐藤健)とキンタロスが敵イマジン相手に苦戦している現場に急行した彼は、侑斗の代わりに良太郎に加勢しようとするデネブを制止。そこに既に現れていた青年「桜井侑斗」からカードを受け取り、仮面ライダーゼロノスに変身し、闘い、敵イマジンを退治した。それに先立つ苦悩の過程で彼は、自身の将来の婚約者となるはずの愛理の喫茶店ミルクディッパーを訪ね、甘党の彼のため特製の苦くない珈琲を考案しながら居眠りしてしまっていた愛理の姿を見詰め、己の厳しい覚悟に胸を痛めつつも決意を固めた。英雄の悲劇的な苦悩と形容してよいが、その英雄は、考え方こそ大人でも、姿形は少年そのもの。珈琲の苦味にも堪えられないような少年なのだ。英雄性を担えるとは見えないような少年であることによって逆にさらに英雄性が深まっているとも云えるかもしれない。
デネブの契約者は青年「桜井侑斗」だったらしい。契約の内容は、少年=侑斗によれば、少年=侑斗に変身用カードを与え、ゼロノスに変身させ、デネブとともに敵イマジンを退治し、未来の「時間の運行」を守ることにあると云う。少年=侑斗は、将来の自分自身である青年「桜井侑斗」の英雄的な覚悟をそのまま己のものとして引き受けていたのだ。それを使命として引き受け、進んで責任を果たそうとしながらも、そのような不条理を、完全に受け容れ切れることなんかできるはずもない。少年でなくとも、大人でも。侑斗の内面のこの二律背反が、今朝の第三十五話では印象深く描かれていた。
一つの救いは、侑斗=ゼロノスが敵イマジンを退治した頃、二〇〇七年の、ミルクディッパーで居眠りをしていた愛理が目を覚まして、良太郎の友達=「桜井君」こと少年=侑斗のための珈琲のレシピ作成を続行したこと。婚約者=桜井侑斗についての記憶を二重の意で既に失ってしまっている愛理は、新たに出会った少年=桜井侑斗に、あたかも、かつて失踪した婚約者に抱いたような不思議な好意を、既に抱き始めていると見受ける。