炎神戦隊ゴーオンジャーGP36

東映炎神戦隊ゴーオンジャー」。
第三十六話「走輔...トワニ」。宮下隼一脚本。鈴村展弘監督。
かなり熱い激動の一話。
それは絶体絶命とも云うほかない危機の連発とともに始まった。ゴーオンレッド江角走輔(古原靖久)の化石化。その衝撃に因るゴーオンジャー&ゴーオンウイングス六人衆の戦意喪失。古代の蛮機族ホロンデルタールの力を継承した害地大臣ヨゴシュタイン(声:梁田清之)の凶暴化。ヨゴシュタインによるゴーオン衆チェンジソウルの強奪。
もはやゴーオンジャーの戦いも終わりか…と彼等自身が失望していたとき、まだ終わってはいないことを気付かせたのは炎神スピードル(声:浪川大輔)だった。走輔を無二の相棒として愛する彼は、走輔の熱さ、走輔とともに過ごした熱血の日々を語った。
ここで想起すべきは、かつて(GP-15)ヨゴシュタイン配下の害地副大臣ヒラメキメデス(声:中井和哉)が登場した際、その「特別」な強さに対する恐怖の余り戦意を喪失していたスピードルを、走輔が「俺だって特別だ!俺だって一番だ。おまえだって一番だ」と叱咤し激励した場面ではないだろうか。丁度あのときのスピードル等と同じように今度はゴーオン六人衆が戦いの覚悟を新たにしたのだ。
注目しなければならないのは、ここにおいて最も熱い思いを明らかにしたのが、他ならぬゴーオンブルー香坂連(片岡信和)だったことだ。何時も冷静な知的な彼は、一面においては、走輔とは正反対の人物であると云えなくはない。だからこそ普段は「家族」としてのゴーオンジャーにおいて走輔が云わば頑固親父であるとすれば彼は優しい母親の役を担っている。だが、走輔と連は付き合いの永い無二の親友でもあり、たとえ人物として正反対の性格の持ち主であっても心は常に通じ合っているのだろう。走輔が不在の今、走輔によって最も強く表現されてきたゴーオンジャーの熱血は連によって激しく表現されるのが必然だったのだ。
同じ意味においてゴーオンゴールド須塔大翔(徳山秀典)が見せた熱さも注目に値しよう。走輔の持ち合わせない強さを持つ彼にとって、走輔は己の持ち合わせない強さを持つ男であり、真の「よきライヴァル」なのだ。
絶体絶命の危機は、予想を超える戦い方によって乗り越える。それがゴーオンジャーの流儀だ。変身の手段を奪われた彼等は変身しないまま戦い、炎神スピードルは「相棒」走輔の不在のまま、宿敵ヨゴシュタインの身体に激突し、奪われていたチェンジソウルを奪回した。
走輔の復活は、さりげなくも必然的に生じたと云えるだろう。彼の化石化は、ホロンデルタールの再生と強化を企てたヨゴシュタインがそのための武器として発明したゼンマイを彼の胸に撃ち込んだことの作用によるものであり、同じ攻撃の結果、街の人々や景色も全て化石化していた。そして亡きホロンデルタールの力を継承して産業革命=巨大化をしていたヨゴシュタインが、復活したゴーオン六人衆によって打倒され、ホロンデルタールの力を喪失したとき、街の人々も景色も化石の状態から脱して生き返り得た。走輔も化石化の状態を脱し得たろうことは必然だったろうと思われる。
生還した走輔は、ヨゴシュタインに対し改めて一騎打ちを挑んだ。走輔が止めの一撃を与えた瞬間、膝で滑るように動いていたことは何を物語るか。一つには、彼の戦いが技によるものではなく覚悟によるものだったこと。しかし同時に、彼が圧倒的な体格の差を逆に利用していたこと。彼は戦術で賢く動く男ではないが、瞬間における天才的な直観で最も正しく動くことができる男であることを物語る。人はそれをヒーローと云う。
走輔の生還と勝利のあと、皆で喜んで走輔のもとに駆け寄ったときのゴーオンシルバー須塔美羽(杉本有美)の言葉と態度には恋する人ならではの感じがあったが、走輔はそのことに気付かなかったに相違ない。
今朝の話は見所の連続だったが、走輔の不在の中、ゴーオンジャーの四人とゴーオンウイングスの二人が一緒になって六人一緒に「炎神戦隊ゴーオンジャー」の名乗りを挙げた場面は、視聴者を興奮させずにはいない熱さがあったし、関連していえば終曲「炎神ラップ」で今回から初めてゴーオンジャー五人とゴーオンウイングス二人の七人が勢揃いした(名付けて「炎神サードラップ」と云う)のも熱い見所だった。