渡る世間は鬼ばかり第三十四話における大井輝(大川慶吾)の主張

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
作(脚本):橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。演出:荒井光明。プロデューサー:石井ふく子。第九部第三十四話。
大井精機株式会社の社長の令娘、大井貴子(清水由紀)は、交際相手の小島眞(えなりかずき)の父である小島勇(角野卓造)の率いる曙オヤジバンドに対し、自らのボランティア活動の場でもある軽費老人福祉施設への慰問を依頼した。大いに張り切るオヤジバンドの四人衆。しかも貴子は、これを機に同バンドのマネイジメントにも尽力するようになったが、大井精機創業家の大井家では、貴子のこの行為をめぐり社長の大井道隆(武岡淳一)と社長夫人の大井直子(夏樹陽子)との対立が激化。吾が娘を手放すつもりはない!結婚したら相手には婿入りをしてもらう!と主張する社長夫人と、子どもには子どもの人生を歩ませよ!と主張する社長。社長夫人の主張は余りにも感情的で利己的で説得力の欠片もなく、冷静に比較するなら社長の主張に分があるのは明白だが、意外にも、貴子の弟である大井家長男の大井輝(大川慶吾[ジャニーズJr.])は両親の何れにも反発した。子どもが成人して一家を構えれば既に親のものではなくなるのだという彼の考えは社長の考えに近いようだが、そのことをもっと徹底した形で解したい彼は、社長が結局は貴子を小島家に嫁入りさせたいと(それが貴子の希望だからであるとはいえ)考えていることを見逃さず、両親とも本質的には似たことを云っているに過ぎないと見たのだ。なるほど彼が大井家の長男でありながら大井精機を継承しようとする気配さえも見せなかったのはそういう思想に基づいていたのか。それなのに母の社長夫人は吾が子をかわいがる余り、家を継ぎたくないという輝のため、家を継ぐ負担を軽くしてやりたいとでも考えたのか、小島眞を迎え入れて番頭や家老の類にしてしまえばよいとでも考えていたとすれば、愚かとしか云いようがない。しかも、輝の考えの意味に未だ気付かず己の愚かさにも未だ気付いていないのかもしれないのだから救いようもない。