旅行記二京都文化博物館白樺派展と京都ギリシアローマ美術館

朝八時四十五分頃にホテルの食堂で朝食を摂って十時半頃に外出。京都府京都文化博物館で開催中の展覧会「『白樺』誕生100年 白樺派の愛した美術」を観照。常設展示も少し眺めたあと、昼二時頃、館内一階ろうじ屋の豆腐料理店の湯葉カレーで遅めの昼食。午後にはさらに北上して相国寺承天閣美術館へ行って「金閣 銀閣名宝展」を見る予定だったが、これは九月六日まで開催されているので延期することにして、予て気になっていた京都ギリシアローマ美術館を訪ねることにした。
烏丸御池駅から地下鉄で北山駅へ。駅を出て北山通を東へ進み、ノートルダム学院の地点から下鴨本通を南下すること約400メートルの辺で東へ行けば、その道の北側に京都ギリシアローマ美術館がある。樹木の奥に大きな洋館が見えるが、門から玄関までの間にも古代の円柱が設置されているのには驚かされる。玄関ホールにも既に古代ローマ彫刻やモザイクが並んでいて、それらを観照するだけでも満足できてしまう。この美術館は凄い!ということをここだけで察することができる。
玄関の正面にある入口の奥の、最初の展示室の中央にあって来館者を歓迎するのは英雄ヘラクレスの大理石像。ヘラクレスの十二の功業を表現する大連作中の一場面を構成した古代ローマの像だそうで、その原作は古代ギリシアの巨匠リュシッポスによると考証されているとか。確かに素晴らしい。トルソ部分のみが遺されているが、大胸筋の厚みにしても腹筋の引き締まり方と盛り上がり方のバランスにしても実に驚くべく絶妙で、力強くて大きくて美しい。壮麗と形容したい。
展示空間は三階まである。一階には発掘現場を再現したような展示もあるのが面白い。そもそも古代ギリシア・ローマ美術を研究する学は「古典考古学」と呼ばれるわけで、この分野に関する限り、美術史学と考古学は一体なのだ。二階や三階には古代ギリシアの陶器も多く展示されていて、抽象的な文様や写実的なフォルムによる人物表現の壺絵を存分に楽しめるが、作品に添えられた解説文も高度に専門的で読み応えがある。
四階には広々として豪奢な休憩室があり、珈琲やジュース等を注文できるが、閉館時間の間際だったので遠慮した。次回はもっと早い時間に来て存分に休憩しようと思った。
一階の受付では絵葉書や図録や関連書籍や特製Tシャツ等も販売されていたので、壺絵の絵葉書六点セットと、あのへラークレース大理石像の絵葉書三枚を購入。館蔵品図録一冊と、澤柳大五郎撮影編集『アクロポリス』も購入。澤柳先生晩期の著書である同書は今や入手困難になっているはずで、ここで入手できたのは幸運だった。館蔵品図録は、この美術館の前身にあたる倉敷蜷川美術館が設立十周年を迎えた一九八二年に刊行されたものだそうで、『THE KURASHIKI NINAGAWA MUSEUM』と題されて全文が英文で書かれ、壺絵や彫刻を複数の角度から撮影して複数の画像で見せるという有り難い工夫もあり、見応えも読み応えもあるが、驚くべきは、現在のこの美術館に展示されている名品の多くが当時は未だ館蔵になっていなかったらしいこと。図録の刊行時にも既に約一八〇点もあった古代ギリシア・ローマ美術コレクションは、現在は何と約四百点にまで充実したとのこと。
さらに驚くべきは、この驚異的な美術館を設立した蜷川明館主の祖父にあたるのが明治の日本における文化財保護行政・博物館行政の偉大な先覚、蜷川式胤であるということ。往年の人気テレヴィアニメ「一休さん」にも室町将軍の側近として登場する教養人、蜷川新右衛門の子孫に他ならない。
今日は、この京都ギリシアローマ美術館へ来て本当によかったと思うのと同時に、ここの素晴らしさを今まで知らなかった己の無知を恥じた。また訪問させてもらおう!と思いつつ、閉館時間に館を出た。