内館牧子の汚れた舌

TBS系ドラマ「汚れた舌」。内館牧子作。第十一話=最終回。
見事な最終話だった。登場人物の皆が壮絶な愛憎劇の果てに全てを乗り越えて一歩だけ前進して、あたかも何事もなかったかのように平和に終わるのは内館牧子ドラマの常だろうが、今回の場合、涼野弘子(森口瑤子)と涼野杏梨(牧瀬里穂)の真の和解という奇跡の大逆転があった。杏梨は、夫の涼野耕平(加藤浩次)と離婚したばかりか、是非とも弘子に富士山花店の社長に就任してもらいたいと土下座をして嘆願したのだ。倒産間近の由緒ある店を弘子に継承してもらうことで何とか倒産を回避したいと杏梨が願ったのは、花店の社員たち大勢を失業させたくないからだった。奇跡の大逆転がそのあとに来た。杏梨の土下座に弘子は満足し、杏梨に対し副社長就任を提案したのだ。たとえ裕福な実家に帰ったところで老いた両親を何時までも頼りにはできないのだから自分一人だけでも生きてゆけるだけの「力」を身に付けるため、花屋で働いてみてはどうか?というのが提案の意だった。もちろん杏梨は感激した。こうして不図気付いてみれば、富士山花店と涼野家は、耕平と「みっちゃん」=涼野光哉(田中圭)の男二人を追い出しただけで以前の勢力を取り戻した上、かつてなかった平安を達成したわけなのだ。
見逃せないのは、弘子もまた倒産後の社員たちの将来について心配していたらしいことだ。弘子の副社長辞任のこと、それに伴い倒産の危険性多大であること、しかも社員たちの再就職については話がまとまっていないこと等を社長の耕平が社員たち全員を前に発表したとき、社員たちは驚き、悲しみ、中には号泣する者もいた。その様子を見て弘子は呆然としていた。貧乏の苦しみをよく知る弘子は、自分の決断が多くの人々に貧乏の苦しみを与えることになる事実を目の当たりにして、悲しくなったに相違ない。
なお、今回は「みっちゃん」光哉が大活躍だった。一人で金沢に旅行し江田千夏(飯島直子)の実家を訪ねたり白川隆一郎(藤竜也)の陶芸アトリエを訪ねて人生について対話したり。しかも彼が白川の近況について千夏に伝えたことが千夏の心機一転を導いたし、もちろん彼自身も白川の言葉に接したことで心機一転を決意できた。そして彼のその決意が弘子をも動揺させたのは明白だった。その果てに杏梨に対する弘子の寛容が生まれたとも思える。
細部にも多くの見せ場があった。杏梨が台所にあった山盛り苺を貪り食おうとして止めた瞬間のあの表情は、今まで「貪り食う」だけの人間だったことを反省しての、改心の徴に他ならない。杏梨が耕平の行き付けの料理店で耕平に対し離婚の意思を告げたとき、耕平の不倫や涼野家の泥沼を一通り目撃してきた店主の大川広次(堀部圭亮)が杏梨の高潔な改心に感動して号泣し始めたのも面白かった。