月九イノセントラヴ第四話におけるユキオ(中村倫也)について

フジテレビ系。月九ドラマ「イノセント・ラヴ」。
脚本:浅野妙子。音楽:菅野祐悟MAYUKO。主題歌:宇多田ヒカル「Eternally-Drama Mix-」。プロデュース:中野利幸。演出:松山博昭。第四話。
述べておきたいことは色々あったが、今回は敢えて、最も印象深かった一場面だけに集中しておこう。ユキオ(中村倫也)が登場した場面のことだ。
舞台は、長崎殉也(北川悠仁[ゆず])がピアノ演奏の仕事をしているバー。秋山佳音(堀北真希)がそこで給仕として働き始めた夜のこと。殉也の演奏を聴くため瀬川昴(成宮寛貴)がそこへ来たとき、背後から肩に手をかけて「久し振り」と声をかけ、「凄い久し振りだよね。何年振りかな?」と語りかけながら横に座し、「今、一人?」と訊きながら手を握り締めたユキオ。
注意すべきは、最初の「久し振り」から「何年振りかな?」までの台詞におけるユキオの声の、抑制された柔らかな調子が、いかにもゲイバーに通い慣れた若手の男子の、オネエ語を用いないときの普段の口調をよく再現していると思わせた点だろう。中村倫也の表現力に感嘆した。
ユキオに手を握られているのを佳音に目撃されてしまっていることに気付いた昴が慌てて手を離したとき、ユキオは、やや強い口調で「もしかして恋人いるの?それ、まさか女ってことないよね?」と訊ね、昴が反応に困りながらも「違うよ」と正直に答えたのを受けて、殉也を見ながら「僕ね、時々ここの店来るんだ。あの人の弾くピアノが好きで」と付け加え、「まあ、気が向いたら連絡して。僕、今フリーだから。一応」と云って去った。
ユキオが殉也のピアノ演奏を好きだと云ったのは、本当に演奏自体にも魅了されるからであるのと同時に、演奏する殉也にも心惹かれるからかもしれないが、それ以上に、昴が殉也に心惹かれているだろうことを感じるからでもあるだろう。殉也が「昴の好みのタイプ」の女を見たこともないのと同じように、ユキオは「昴の好みのタイプ」の男をよく知っているのだろう。この遣り取りを通してユキオは、昴の現在の恋が成就しそうもないこと、換言すれば、好きな人はいても「フリー」も同じであることを証明してみせたのだ。その狙いが昴と縒りを戻すことにあるのは「今フリーだから」という一言から明白だが、その前に「気が向いたら」と付け加えているのは、縒りを戻すことにはなりそうもないこと位、既に予想できていることを物語る。
昴が、成就の見込みもないような叶わぬ恋心に、あたかも殉じるように生きてゆこうとするような男子であること、その思いを邪魔立てすることが難しいことを、(視聴者である吾等は今まで知らなかったが)ユキオは充分に知っているのだろう。では、対するユキオは一体どのような男子なのだろうか。その露頭は「今フリーだから」のあとの「一応」の一語にあるかもしれない。彼は現在「フリー」、恋人がいないが、それはあくまでも「一応」のことである以上、気軽に交際する男子がいないわけではないと解され得る。昴とは違い、禁欲の青春を過ごしているわけではない。決まった相手こそ不在でも、所謂ハッテンを欠かしているわけではないと想像される。
もっとも、この「一応」を「気が向いたら連絡して」との関連で解読するか、それとも「今フリーだから」との関連で解するかで意味は違ってこよう。後者については今ここに述べた通り。前者については解説の要はなかろう。
ちなみに成宮寛貴ブログ二〇〇八年十一月五日付の記事によると、ユキオという役について台本には「目の覚めるような美少年」と書いてあったらしい。確かに、素顔こそ真面目そうだが、夜のバーのあの照明の中、妖しげで淫らでさえある美少年に見えた。中村倫也の表現力に感嘆した。